バイコヌール打ち上げツアー (2013/11/7)

5日目 ソユーズ打ち上げ

ついに打ち上げの日がやってきました。
早朝?というよりも深夜、飛行士がホテルを出てバスに乗り込むのを見学するため、昨日記者会見を行った敷地に向かいます。
たいした距離ではありませんがマイクロバスで移動。

特に検問はなく、こんなザルなセキュリティで良いの?と思いつつ敷地に入ると、若田さんらプライムクルーが通るであろう歩道にはすでにメディアが溢れています。
近くで見学するのは早々に諦め、「若田光一宇宙飛行士を応援する会」から預かったタオルを掲げて応援することにしました。
結果、ツアーの旅行会社が用意した大きな横断幕の隣にいたことも手伝って、各国のメディアから写真を撮られまくります、ちょっと照れるなぁ。

出発前の宇宙飛行士はゲン担ぎのイベントが幾つかあるそうで、自分たちの待つ通路に現れるまでしばらく待ちぼうけ。
寒さに耐えつつ、まだかなぁ?と思っていると突如ポップな音楽が流れ初め待機していたメディアの動きが慌ただしくなりました。
建物の玄関から若田さんら3人のクルーがこちらに歩いてくるのが見えます、チューリン飛行士はオリンピックのトーチを掲げている様子です。

飛行士の立ち位置は決まっているようで若田さんは常に向かって左側のポジションです、これは昨日の会見場でもそうでしたから何かしら明確なルールが有るのでしょう、アイドルユニットみたいですね。
そのおかげで私たちの待つ場所の一番手前を歩く形になり、JAXA職員・ご家族、メディアの応援に対して「みんなありがとう、行ってきます!」とにこやか応えながらバスに乗り込んで行く姿を確認できました。
最後にクルーらが車窓から手を振ると、すぐにバスは発車して宇宙基地に向かって行きました。

ところで、あとで聞いた話によると出発式でかかっていたポップスは30年以上昔の曲だそうです。
これもゲン担ぎの一つなのかもしれませんが、ちょっとミスマッチな感じが何とも言えません。 しかしTVの中継では音声がカットされることがほとんどですから、この曲が聞けるのはバイコヌールならではの特典です。

出発式でクルーを見送ったものの、実は基地内で行われる宣誓式も見学する予定だったりします。
そのため私たちもバスに乗り込んで後を追うように基地に向かいます。

一昨日のソユーズ搬送に続いて2回目の基地内訪問になります。
先ほどの出発式とは異なり基地内のセキュリティは流石に厳重です、荷物の目視検査と金属探知機を使ったボディチェックを受けます。
えーた こんぴゅーてる、とりのぎ、折りたたみイスってロシア語でなんて言うの?
適当に誤魔化しつつ無事会場入りました。

建物に囲まれた中庭のような会場はアスファルト引きになっており、宣誓式の際飛行士が立つであろう位置にはバミがペイントされています。
恐れ多くもバミの上に立ち、形だけでも宇宙飛行士の気分を味わってみました。

しばらくすると規制線が張られクルーの出現を待つのみとなりますが、ここで思わぬサプライズが!
なんと飛行士の親族と極限られたスタッフやメディアしか入ることの出来ない最終面会のエリアに立ち入らせてもらえる事になりました。
一昨日発射点や工場の見学がキャンセルになったことを考慮してくれた様子で、現地コーディネーターとロスコスモスの計らいに感謝するばかりです。
建物の細い廊下を通り面会部屋に入ると、宇宙服に着替え終えたクルーがそれぞれ家族との対話に花を咲かせておりました。
ガラス越しではありますが、ほんの数メートル先にこれから宇宙へ旅立つ若田さんら宇宙飛行士と面会出来るなんて感激です。
小さく手を振ると若田さんは軽く会釈をして応答してくれましたが、おそらく事情を知らないでしょうから「誰だあの日本人?」ぐらいに思っていたかもしれません。

他の見学者と入れ替わるためサプライズは3分ほどの短い時間で終了、しかしまさかの大接近はとても良い思い出になりました。
「今朝は何を食べましたか?」という親族の問いに「卵焼きを食べました」と優しく答える若田さんの笑顔がとても印象に残っています。

屋外に出て宣誓式の会場に戻りクルーの登場をしばらく待ちます。
宣誓式というからには厳かな式をイメージしていたのですが、建物から出てきた3人のクルーはバミの前で一旦停止、チューリン飛行士が宣誓の言葉を述べお偉方?と握手をするとそのままスタスタとバスの中へ乗り込んで行きました。

フタを開けてみればかなり形骸化した様相のイベントでした、あまりにもあっさりしていて拍子抜けするほどです。
宇宙服で長時間の行動は負担になるでしょうからそうなるのかもしれませんね。
次にクルーの姿を見られるのは、夕方行われるドッキング中継のはず。

ようやく地平線が白みだし、カザフの平原と基地の施設が美しい風景を見せます。

基地内の施設で朝食をいただいた後、10時過ぎに行われる打ち上げまでの間、バイコヌール宇宙基地博物館(Музей космодрома Байконур)を見学します。
この博物館は宇宙飛行士が寄せ書きをする慣例がある事でも知られています。
その他にもロシア版スペースシャトル「ブラン」の実機やコロリョフ・ガガーリンが滞在したコテージなど見所たっぷりです。

屋外の展示物、ブラン、ソユーズ宇宙船など。





屋内の展示物、宇宙飛行士のサインや実物・模型など

コロリョフ・ガガーリンの滞在したコテージ


興味深い展示物がたくさんあり、もっとゆっくり見ていたいのですが、肝心な打ち上げを見逃しては意味がありません。
後ろ髪を引かれる思いで打ち上げの見学場所に移動することになりました。

見学場に到着すると、すでに多くのメディアがカメラを並べてスタンバイしています。
一段高くなった観覧席はメジャーなメディアが押さえているため地面からの見学になりますが、十分な広さがあるので最前列を確保するのは難しくありません。

発射台は見学場所より若干低い位置にあり、地面からでは手前の土手に隠れてロケットの下部は見えません。
辛うじて発射台のチューリップが見える状態でしたがそんなことは些細な問題です、なんといっても距離が近い!
後に写真に記録されたGPS情報から計測したところ、射点から1.4km弱と種子島の規制線3kmに比べて半分以下の近さです。
これは安定した運用が確立したソユーズだからこそ実現できる距離なのかもしれませんね。

見学場所にはカウントダウンタイマーがあるわけでもなく、場内放送があるわけでもなく至って平然とした雰囲気です。
第一アンビリカルタワーが外され、メディアが一斉にレポートを始めることで打ち上げ直前であることが感じられます。
第二アンビリカルタワーが外れるとすぐに白煙が立ち上るのが見え、それとほぼ同時にエンジン音が聞こえてきました。
すぐにエンジンの推力は上がり、ロケットを固定していたチューリップが展開してリフトオフ!
大地を揺るがす爆音は音というより圧力と表現した方が良いかもしれません。
ロケットはみるみる上昇し、飛行機雲ならぬロケット曇を残して小さくなっていきます、どうやら順調に飛行している様子です。
第一段の切り離しが辛うじて目視で確認出来ましたが、それ以降はわずかに音が聞こえるだけになりました。

ところで、発射から見えなくなるまで10分に満たないわずかな時間を、いかに有意義に過ごすかとても考えさせられました。
というのもバイコヌール行きのコスモスエアーで、とある外国人が「初めて打ち上げを見るのならファインダー越しでなく自分の目でしっかり見なさい」という旨の話をしているのを聞いていたからです。
言葉の意味は良く理解出来るのですが、そうそう何度も体験できるイベントではないので記録に残したいという欲があるのも事実。
しかし、わざわざバイコヌールまで来てファインダー越しにデジタル画像を見るのもおかしな話ですし、この葛藤は打ち上げ見学の大きなテーマだと思います。

興奮冷めやらぬまま宇宙基地からバスで市街へ戻り昼食。
ドッキング中継まで時間があるためホテルでしばらくのんびりした後、宇宙基地へ向かう鉄道の駅などを見学して過ごします。



頃合いを見てドッキング中継会場へ
打ち上げからたったの6時間でISSにドッキングするロシア自慢の特急コースになってから、バイコヌール市内でドッキング中継を見られるようになりました。
つい先日のTMA-08M以前はドッキングまでに約2日を要していましたから、宇宙飛行士の負担軽減と共に私たちも一大イベントを見学することが出来るわけです。

薄暗い会場の正面にはプロジェクターが設置されてあり、ISSから見たソユーズの姿やオンボードカメラの画像が投影されています。

辺りを見回すと各国宇宙事業関係者のほか、飛行士の家族もドッキングの様子を見守っています。
モニターに映し出されたソユーズが徐々に大きくなり、やがてドッキングポートが目前にせまるとわずかに画面が揺れ"contact and capture"の実況アナウンスが聞こえました。
どうやら無事にドッキングが完了した様子です、中継会場は拍手に包まれます。
つい先ほど地上で見送った若田さんたちクルーが、すでに400km上空のISSに居るなんてウソみたいですね。
なんにせよ事故無く無事到着して一安心です。

 ↑ バイコヌール中継会場の様子
NASA TVのドッキング中継アーカイブ

ソユーズの乗員がISSに乗り移るまではしばらく時間が掛かるため、一旦中継会場を離れます。
会場のホールでは、打ち上げ成功を祝う立食パーティーの準備が行われていました。

2時間ほど市内を散策した後、ソユーズからISSへの移乗を見学するため再び中継会場に戻ってきました。
プロジェクターにはISS側からみたドッキングハッチが映し出されています。
ハッチのロックが外されて暫くしてもなかなか出てこないので、待ちくたびれたISSのユールチキン飛行士はハッチを叩いて催促します。
お茶目な行動にバイコヌール中継会場が笑いに包まれる中、やっとハッチが開き聖火トーチを携えたチューリン飛行士が出てきました。
ユールチキン飛行士とハグしてトーチを受け渡した後、次いでマストラキオ飛行士、若田飛行士と続き、無事全員ISSに移乗完了です。

すぐにISSの一室に9人の飛行士が集まりバイコヌール中継会場と交信が始まりました、親族と飛行士の会話を同じ空間で聞くことができて大変光栄です。
こちらの発声の後、数秒遅れて中継回線から同じ声が聞こえ宇宙との距離を実感できますが、自分の発した声に遮られる形になるのでとても喋りにくそうでした。
そんな中でも若田さんとお母さんの会話がハートウォームな雰囲気でとても良かったです。
NASA TVのハッチオープン中継アーカイブ

中継終了後、ホテルに戻りバイコヌール最後の晩餐が始まります。
ダイニングには私たちツアーのほか、JAXA職員やロシアの関係者もテーブルを並べており、打ち上げの成功に昂ぶった雰囲気です。
ロシア組のテーブルでは「ура! ура! урааа!」と、歓声を上げながらウォッカの回し飲みが始まります。
するとJAXA組は「浦和! 大宮! 埼玉ぁぁ!」と、「ウラ!」に対抗して韻を踏んだ謎なかけ声でロシア組に応戦していました。(若田さんは大宮出身、浦和高校卒です)
最終的には私たちツアー組もいっしょになって日本人全員で「浦和! 大宮! 埼玉ぁぁ!」と乾杯してミッションの成功を祝いました。

部屋に戻ってテレビをつけると、ロシアのニュース番組ではソユーズの打ち上げがトップニュースで報道されていました

バイコヌールで見るバイコヌールのニュースは少し不思議な気分です。

明日は早朝の出発です、早めに布団に入るも夜中の3時頃までウラー!ウラ-!とダイニングから聞こえていました。
内容の濃いとても長い一日を終了。

バイコヌールのホテルから自宅宛に打ち上げ成功を祝うハガキを送りました。

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